Monday, May 19, 2008

ポトマック河畔に浮かぶ日本宮殿



~ケネディーセンター日本フェスティバルが開かれました~


米国ワシントンで、なにやら面白いことが起こっている! と聞きつけたブログチーム、さっそく現地で働くジャパンファウンデーション職員、マッチさんにレポートをお願いしました。


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 米国の首都ワシントンというと、何を思い浮かべますか? ホワイトハウスや合衆国議会議事堂の建物は、テレビ・ニュースでおなじみですね。アメリカ政治の中心地として名高いワシントンですが、実は、文化都市の顔も持っています。スミソニアン協会が運営する16の博物館群は世界的に有名ですし、ナショナル・ギャラリーも見逃せない観光スポットです。








 アメリカ唯一の国立劇場、ケネディーセンターは、ワシントン中心部を流れるポトマック河畔にあります。今年2月上旬の2週間、日本文化を総合的に紹介するフェスティバル「ジャパン! カルチャー+ハイパーカルチャー」がここで開かれました。7つの劇場と3つのギャラリーを持つ巨大な舞台芸術の殿堂には、450人を超えるアーティストが招かれ、演劇・ダンス・音楽を中心に、視覚芸術(美術・工芸・デザイン・ファッション)、ロボット、文学、アニメ・マンガ、映画、料理など、40件以上の多彩なプログラムが万華鏡のように展開されました。











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本フェスティバルは、その規模もさることながら、世界とダイナミックに交流する現在の日本文化を多角的に紹介するという点で際立っていました。ケネディーセンターの委嘱による宮本亜門の新作『UP IN THE AIR』は、アメリカ演劇の象徴とも言えるミュージカル形式で、水上勉の原作『ブンナよ、木からおりてこい』を米国人キャストにより舞台化した作品。新国立劇場バレエ団は初の海外公演として、帝政ロシア時代に書かれた中世フランスを舞台とする『ライモンダ』を披露。東京に拠点を置き、フランス人アーティスト、フィリップ・シャトラン率いるラップトップオーケストラは、石川高の笙と共演。ニューヨークに拠点を置くヴァイオリニスト、五嶋みどりは、アメリカを代表する若手室内アンサンブル「ミロ・カルテット」と共演し、ジャポニズムに感化されたドビュッシーと、彼に影響を受けた武満徹の作品を一晩で披露。日本語とドイツ語で作品を創作する芥川賞作家の多和田葉子は、同じくベルリンに住むジャズピアニスト、高瀬アキとデュオを組み、音と言葉のパフォーマンスを展開。日本の古典演劇の中からは狂言が選ばれ、人間国宝・野村万作が『棒縛』『川上』『茸』を演じる一方、野村萬斎は、シェイクスピアの原作を日本の伝統芸能というレンズを通して蘇らせた『間違いの狂言』で観客を魅了しました。



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 センター2階のアトリウムでは、草間彌生の水玉模様で覆い尽くされた「ドッツ・オブセッション」と、安藤忠雄のインスタレーション「私たちの環境について考えるための四つの立方体」が来訪者の目を惹きました。特に、草間の水玉模様のオブジェは子供たちに大人気で、跳んだり跳ねたり、寝転がったり。その様子を写真に収めるのに一生懸命な父兄の姿。やはり、親子連れが必ずと言って良いほど立ち寄ったのは、「ロボトピア」と名付けられたネーションズ・ギャラリー。ロボットを人間と対立する機械ではなく、人を助け、人間社会に寄与するものと捉える日本人の発想に独自性が見出され、からくり人形から最先端の人型ロボットに至る様々なタイプが展示・実演に供されたほか、専門家のレクチャーや明和電機のパフォーマンスも行われました。約1時間おきに行われたホンダ・アシモとトヨタ・パートナーロボットのデモンストレーションは毎回、最前列は小さな子供たちでびっしり埋まり、その後ろに大人の人だかり。特に週末は、隣のマンガ喫茶コーナーとともに、押すな押すなの大混雑ぶり。地元の在留邦人の方々や、日本語・日本文化を学ぶ学生を含む総勢230人のボランティアが会場整理に当たりました。


  


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 多くの無料イベントを用意し、親しみやすいプログラム編成を心掛けたこと、さらに季節外れの陽気も手伝って、日本文化の玉手箱と化したケネディーセンターには、物見高いワシントン市民はもちろん、全米各地や世界中から米国の首都を訪問中の観光客も立ち寄り、思い思いに展示や公演を楽しむ姿が絶えませんでした。その数、延べ10万人以上と見られています。


 フェスティバルの芸術監督を務めたのは、ケネディーセンター国際事業担当理事のアリシア・アダムス氏。日米両国の様々な関係者の意見を参考にしながら、アダムス氏はわずか2年の準備期間中、訪日調査を4回行い、質の高いフェスティバルを実現しました。アートと科学技術、ハイカルチャーとサブカルチャー、古典と前衛が共存し、せめぎあう現代日本の文化状況を「ハイパーカルチャー」という造語で表現したのも、同氏の慧眼によるものです。一方、国際交流基金ニューヨーク事務所は、フェスティバルの企画の初期段階から、アダムス氏を中心とするチームの活動を、ロジ・サブ両面について支援しました。



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 故ケネディー大統領の追悼記念館でもあるセンターの壁面には、同大統領が残した次の言葉が刻まれています。「私は、ビジネスや国政における業績が評価されるのと同様に、芸術における業績も評価されるアメリカを期待したい。私は、芸術の到達水準を常に高め、すべての国民に文化的な機会をたえず拡大するアメリカを期待したい。私は、その国力のみならず、文明についても世界中から尊敬を受けるアメリカを期待したい。そして私は、民主主義と多様性のみならず、個人の差異ゆえに安全となるアメリカを期待したい」。そのような想いの込められた場所で開かれた今回のフェスティバルが、日米文化交流史の一つのマイルストーンとして、長く人々の記憶に残ること――それが空前規模のイベントに携わった関係者一同の願いです。








【関連リンク】


● フェスティバルの公式ウェブサイト


http://www.kennedy-center.org/japan


● 毎日夕方6時に行われた無料公演の動画


http://www.kennedy-center.org/programs/millennium/archive_month.cfm?month=2&year=2008


● 児童生徒向けの日本文化ガイドブック


http://www.artsedge.kennedy-center.org/iPass/


● アリシア・アダムス氏(ケネディーセンター)へのインタビュー記事


http://www.performingarts.jp/J/pre_interview/0706/1.html





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