Tuesday, September 18, 2007

アチェ、津波と紛争からの復興にむけて






「将来の平和を担う子どもや若い世代が、心の中に憎しみを抱えたままだと、暴力と憎悪の悪循環は断ち切れないだろう」





インドネシアを代表する社会学者イグナス・グレデン氏の話に刺激をうけた佐藤(万)職員。グレデン氏の話を聞くなかで湧きあがったこの思いが、NGO関係者や心理学者等の協力を得て、紛争下で暴力の恐怖にさらされ、あるいは実際に被害をうけた子供たちの心のケアに、文化や芸術を通じて取り組む事業へと徐々に形作られていきます。




そして、2007年4月。「アチェの子供たちと創る演劇ワークショップ」として実現しました*1





さらに、このワークショップでの経験をより多くの方々と共有するため、7月下旬から8月上旬にかけて、ワークショップに協力いただいた現地NGO関係者、そして芸術家を招聘し、東京・京都の2箇所でセミナーを行いました。今回は、その様子を事業の副担当である、佐藤(訓)職員に報告していただきます。






ブログで以前に紹介した「アチェの子供たちと創る演劇ワークショップ」の企画者であり前担当者である佐藤職員の熱い意思を引き継ぎ、現在、副担当として本プロジェクトに関わらせていただいております(これまた)佐藤です。





この度、同ワークショップのフォローアップ事業として、7月27日から8月7日まで、ワークショップの共催団体だったコミュニタス・ティカールパンダン(以下、TP)の代表を務めるアズハリ氏、事務局長のユルファン氏、そして彼らとともに活動するストーリーテラーのアグス ヌル アマル氏(以下アグス氏)を日本に招へいしました。f:id:japanfoundation:20070727131003j:image:left


(写真:左からアズハリ氏、アグス氏、ユルファン氏)


招へいの主な目的は、来年実施予定の第2回目ワークショップについての打合せを行うことでしたが、せっかくはるばる日本まで来てもらうのだからということで、アチェと日本とのネットワーク形成を狙い、日本で彼らの活動と方向性を同じくするようなアーティストやNPO/NGOの関係者、研究者との交流の機会を設けました。また、アグス氏のパフォーマンス公演も含めた公開セミナーを京都と東京で併せて2度行いました。





一行は7月27日に関西国際空港から日本入りし、京都、大阪に滞在した後、東京に移動しました。私は彼らの関西での日程に同行しましたが、その中でも特に印象深かった京都大学でのセミナーについて皆さんにご報告させていただきます。





京都大学アジア・アフリカ研究所と共催で実施した今回のセミナーでは、休日だったにも関わらず、30名弱の方々の参加がありました。セミナーではまず、アズハリ氏から紛争下のアチェの状況と和平合意後のアチェについて発表がありました。プレゼンテーションのタイトルは「夜が来ました」。紛争下のアチェでは午後5時以降の外出は禁止されていたのですが、元来、アチェの人々にとって、スピリチュアルな夜という時間に行う文化活動が非常に重要であり、和平合意後にはそのような「時間」が戻ってきたという内容でした。






しかしながら、紛争下で人々の心に植えつけられた「恐怖」というものはなかなか消えず、トラウマを抱えた人々は自由にイマジネーションを発揮することができなかったのだそうです。それを打開するため、TPとアグス氏たちが行っている活動の一つに、TVエンオンという活動があります。彼らはアチェの各村々を訪問し、テレビの枠や、マイクや照明のスタッフなどに扮した人々を含めた実際のテレビ収録現場のようなものを作り出し、そこでパフォーマンスをしたり、逆に、観客である村の人々に実際にテレビの中に入って演じてもらったりしています。この活動を通じて、村の人々が笑ったり、自分の思いを言葉にすることを通じて、恐怖体験からトラウマに囚われ閉じてしまった心を解きほぐしたいというのが彼らの願いです。発表の最後にアグス氏が言っていた、「人々が自分たちの活動を通じて笑ってくれたら、それこそが『平和』だということなんだ。」という言葉が印象に残りました。





セミナーの後半はアグス氏のパフォーマンスで締めくくられました。f:id:japanfoundation:20070914165940j:image:left彼のパフォーマンスは日本人からよく落語と似ていると言われるようなのですが、見たことの無い方のために一言で表現するとすれば、「動きのある落語」もしくは「1人でやる狂言」というところでしょうか…。(余計イメージしにくくなったかも。)ただし、道具をたくさん使うところは落語、狂言とも大きく異なるところだと思います。ちなみにストーリーテリングというのはアチェの伝統文化で、伝統的にはアチェ語で行うところを、アグス氏はインドネシア語を使って、インドネシア各地で公演を行っているのだそうです。f:id:japanfoundation:20070728171617j:image:right


彼のパフォーマンスは基本的には即興なので、この日も結局、事前に観客に配っておいたストーリーとは全く違う話が展開しました。内容は、主人公の少年が母親の病気を治すために必要な薬(ガルーダの卵)を取りに冒険の旅に出るというもの。インドネシアからはるばる持ってきた一見ゴミ(?)のようなものたちが、ストーリーに合わせて化ける化ける。写真はその一コマですが、髭のように見えるのはスーパーでもらえるビニール袋、船のように見えるのはベビーバス、オールはほうきで代用です。その他、ペットボトルを利用したロケットなど、身近にあるものを変幻自在に操って観客を魅了しました。






f:id:japanfoundation:20070914165809j:image:left


観客はアグス氏のパフォーマンスに大笑い。こうやって皆で声を出して笑えることが、平和ってことなんだなと実感した一日でした。







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