Thursday, July 31, 2008

自らの内側に他者を育てる(翻訳通訳考)



こんにちは、くんしです。


今日で7月も終わりですね。明日から8月。夏休み本番の方もいらっしゃいますよね。


7月のブログでは、小説や日本語関連の書籍など、本をいくつかご紹介しました。

そこで、今回はジャパンファウンデーションの機関誌である『をちこち』第23号(2008年6月1日発行)の内容を少し振り返ってみたいと思います*1。


特集のタイトルは、ズバリ「翻訳がつくる日本語」です。





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巻頭鼎談は、豊富な翻訳経験をお持ちで著書や訳書も多数出されている鹿島茂氏(明治大学国際日本学部教授)、亀山郁夫氏(東京外国語大学長)、鴻巣友季子氏(翻訳家)の3名によるものでした。





鼎談の中の小トピックを拾ってみると・・・



「作品のタイトルをどう訳し、どうつけるか」


「なぜいま新訳が見直されているのか」


「外国文学全集の翻訳で家が建った時代」


「こなれた翻訳を売りにしたプロの翻訳家が出てきた」


「語り手の「声」を意識した翻訳が増えてきた」


「昔の翻訳は息継ぎの仕方が今の人に合わなくなった」


「濁った翻訳の抵抗感によって想像力が高まることもある」


「下手な原文は下手に訳すべきか こなして訳すべきか」


「何でも原文の語順にそって訳すのは危険である」


「ハイになって、いくらでも訳せる瞬間」


「明治時代には登場人物の名前まで日本風にした」


「翻訳とは自らの内側に他者を育てることである」



と、これだけでも興味をそそられる魅力的な内容になっています。





特に印象深かったのは、「翻訳とは自らの内側に他者を育てることである」という内容でした。例えば、以下のやりとり。



(鹿島氏)要するに、翻訳は他者を自分の中に育てることですね。他者がないと自己肥大になってしまう。


(亀山氏)他者がいないと、カラオケを一人で歌っているにすぎない。他者を受け入れる苦しみはまさに翻訳です。



また、本を読むということについて、



(鹿島氏)T・S・エリオットが『読書論』で言っています。本を読んで、その中に没入することは、作者に自我を占領されてしまうことである。違う読書体験をすると、また占領される。この繰り返しによって、いろんな他者を育てていく。それが読書だということですね。



読み終えて私は、翻訳をするということは、外国の文化に精通し外国語の言葉を操りながら、「作者に自我を占領される」体験を通じ、しかし同時に完全に「対岸」に行ってしまうのではなく、つまり完全に他者と化してしまうのではなく、「他者を自分の中に育て」、「他者を受け入れる苦しみ」の中でもがき格闘しながら、言葉を紡ぎだしていくということなのではないかと感じました。





翻訳によって日本語が鍛えられる、翻訳が日本語をつくるという鼎談のテーマに、「なるほど!」と納得するものがありました!





『をちこち』第23号は、ジャパンファウンデーションのウェブサイトや全国主要書店で購入することができますので、ぜひお手に取ってみられてはいかがでしょうか。


そして、何と、明日8月1日は『をちこち』第24号の発売日です。


特集タイトルは「変わりゆくインドネシア」。こちらもまたご紹介しますので、お楽しみに~。








さて、話は変わりますが、最近私は米原万里著『心臓に毛が生えている理由』(角川学芸出版, 2008)を読みました。





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米原さんは名の知れたロシア語同時通訳家で、作家でもいらっしゃいました。


2006年5月にご逝去されてから2年後に当たる本年に、新聞や雑誌に掲載されたエッセイを一冊の本にまとめる形で出版されました。


ユーモアやウィットに富んだ軽快な米原節で、すいすいと読み進めることができます。





本の中で、米原さんは9歳から14歳の多感な時期にプラハに住み、50カ国くらいの生徒が通うソビエト学校に通っていらっしゃったとあります。


東欧がイデオロギー対立の中で揺れ動く中、ソビエト学校にいろいろな経緯で集まった国や民族の異なる子供たちは、否応なく国を背負わざるを得なかったとありました。


米原さんもつい日本という国を背負っていたと。





翻訳者と通訳者は似て非なる部分も多数あることと思われますが、私は、先の『をちこち』第23号の鼎談にあった「自分の内に他者を育てる」を思い返しました。


通訳家としての米原さんにとって「他者」があるとするならば、それは自分の中に育てられたものではなく、否応なく自分の中に入ってきたものだったと言えるかもしれません。その他者から自分を区別するための格闘があり、様々なご経験やご苦労を経られて、自分の中の他者とのちょうどよい関係を築かれたからこそ、今回のエッセイ集のような文化を俯瞰する余裕たっぷりで深みある文章があるように思われました。








ジャパンファウンデーションで仕事をしていても、文化と文化が単純につながるだけでなく、つながることで双方が豊かになると思う瞬間があります。翻訳者や通訳者という仲介者の方々によって、新たな日本語、新たな外国語、新たな文化が創り出される、それは豊かなことだと改めて思いました。




*1:毎日新聞(6/8朝刊)、日経新聞(7/3朝刊「春秋」欄)に紹介記事が掲載されました





Wednesday, July 30, 2008



夏真っ盛りですね。夏休みシーズン、みなさまはどこかへお出かけになられたでしょうか。


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暑い時には、甘いものが恋しくなりますが、国際交流基金ジャパンファンデーション 


クアラルンプール事務所より、おいしそうな和菓子の写真が届きました。 


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7月のはじめに、和菓子にまつわる講演会と作り方のデモンストレーション事業が


東南アジアのインドネシア、クアラルンプール、シンガポール、ブルネイ総計4カ国で開催されました。


これは、日本文化紹介事業という事業の一つで、日本文化を紹介するため、色んな分野の文化人・専門家を海外に派遣して、講演やデモンストレーション、ワークショップを行う事業です。


今回は、島根の和菓子職人による講演会とデモンストレーション実演をして、和菓子の紹介と、その創作過程に流れる日本人の心も紹介しました。 テーマは、和菓子の創作過程『煮る』 『焼く』 『蒸す』。





『煮る』は、あんこ 練りきりの菊(一番上の写真ですね)


『蒸し』は、蒸し饅頭です。


『焼く』が、桜餅。 




「え? 桜餅を焼く?」とびっくり意外に思いましたが、桜餅には関東風と関西風があって、関東風が(長命寺餅):小麦粉あるいは白玉粉の生地を焼いた皮で、餡をクレープ状に巻いたもの。*1どら焼きの皮のようなかんじなのです。桜餅にも色々とあるんですね~








中央右よりにいらっしゃるのが、今回派遣を受けてくださった専門家の方です。


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職人さんたちは、松江の老舗和菓子屋さんで何十年も和菓子一筋に生きてきた方々、現在は松江の和菓子専門学校の講師をされているとのこと。


最後に今回事業を担当された文化企画課のKさんにご感想を伺いました。





Q:今回の事業、無事終えられて各地で大変反響が高かったとお聞きしました、事業を担当されて、いかがでしたでしょうか。


A:和菓子職人さんからこんなお話を伺いました。


お茶文化と共に栄えた和菓子ですが、お茶の席ではホストがゲストに「人生で2度と来ないこの時間をこうして一緒にお茶を飲むことが出来るこの時間を大切に過ごしましょう」という気持ちで


ホストは精一杯のおもてなしを提供し、ゲストはそのサービスに心から感謝し、お菓子と共にお椀の抹茶を飲み干すのだそうです。


その為、和菓子は、その場に相応しいものでなければならないため、


1.華美でお茶室の雰囲気を壊してはいけない。2.季節を窺える品でなければならない。3.お茶の香りを邪魔しない匂いの薄いものでなければならない。と考えられてきたそうです。


また、和菓子を頂く際に5つの感覚で食べるというお話を聞きました。視覚、嗅覚、触覚、味覚、聴覚で食べるそうです。


見る、匂う、触れる、味わうは理解できますが、「耳で聞いて味わう」とは何だろう?と思いました。


和菓子にはそれぞれ季節を窺える名前を付けるのが普通ですが、花や鳥や四季の風景の名前の他にも風や水にも四季を感じられる名前を付けると伺いました。


東南アジアでは認知度が高い「日本食」と比較すると「和菓子」はまだまだ知られていないと想像します。今回和菓子を紹介出来た事が少しでも日本の文化や風土を紹介する事になれば良いな、と思っていましたが、空港に専門家一向を迎えに行き皆さんの笑顔を見た時に、和菓子一筋に生きてきた実直な職人さん達を紹介する事が何よりも日本文化紹介になったのかも知れないな、と思いました。






Tuesday, July 29, 2008

[日本語からの]突然目に飛び込んできた「日本語能力試験」






お暑うございます。久保田です。





さて今日は週末の「びっくり」についてです。


穏やかな日曜日の朝、


何気なく開いた紀伊国屋書店のウェブサイトを見ておどろきました。





「和書全店週間ベスト」の第1位になんと


「日本語能力試験」の文字が!!(7月14日~7月20日付)


僕は思わず3回も画面を見直してしまいました。





1位になっていたのは、凡人社から発行されている


「日本語能力試験受験案内(出願書類付)(2008)」。





一体何冊売れたら1位になれるのか、僕にはよくわかりませんが、

1位になるのは結構すごいことですよね、きっと*1。








僕の職責は「日本語能力試験を海外で実施すること」で、


まさにこの試験の担当者なのですが、


それでも往々にして、この試験をめぐる状況にはびっくりさせられます。


そしてびっくりすると同時に、身が引き締まる思いがします。





例えば下の写真は、3月の北京出張時に撮らせて頂いた現地の書店の語学コーナーのもの。





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【棚1(全体)】





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【棚2】





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【棚3】





これらは全部、日本語能力試験関連の参考書や問題集なんです!





この光景を目にしたときも、話では繰り返し耳にしていた


中国における日本語能力試験への関心の高さを、

ひしひしと体感しなおすことになりました*2。





これだけたくさんの方が試験に関心を持ってくださって、

実際に試験に応募し、試験を受けているんだということを身体で実感するからです*3。





日本語能力試験の実施は、日本国内を(財)日本国際教育支援協会が、


海外を私たち国際交流基金(ジャパンファウンデーション)が担当しています


(台湾での実施は(財)交流協会の担当です)。




昨年度の全世界での応募者数は、なんと63万人超、受験者数は52万人を超えています*4。


海外について言えば、今年度52か国、144都市で行う予定のこの大規模な試験を

各地の実施機関、在外公館、ジャパンファウンデーションの海外事務所の協力を得て実施しています*5。








今回ご紹介した『受験案内』は日本国内の受験者のためのものです。


海外で試験を受けたいという方は、各実施地の「実施機関」で『受験案内』


(国内のものとは別物ですよ!)を入手することになります。


応募者・受験者の方、日本語教育関係者の方々から見ると、


どこにコンタクトをとっていいか分かりにくいきらいがあるようですが、


基本的には「ご自分が受験する場所」を基準にしてくださいね。


詳細はつい先日リニューアルした日本語能力試験公式サイトでご確認を!





2008年度は12月7日(日)に世界一斉に行われます。


僕も試験実施に向けて全力で準備をしていきます!


受験者のみなさん、がんばってくださいね!




*1:今朝、再度ランキングを確認したところ、『ハリー・ポッター』が1位の座に!『受験案内』は2位でした。


*2:中国での07年度の受験者数はなんと20万人を超えています!


*3:この記事を書くにあたって、過去にこのブログで日本語能力試験について書かれた記事(例:1、2、3、4)を読み返してみたのですが、いずれも試験への関心が伝わってくる内容で、また思いを新たにしました。


*4:応募者数ベースの国内・海外の内訳は、国内が10万3千人、海外が52万9千人です。


*5:このようなネットワークがあるからこそ、この規模の試験を安全裡に実施することができるのです!