Friday, October 23, 2009

 人の移動と中高生による映像共同制作ワークショップ



こんにちは、松岡です。

過去にも何度かご紹介してきておりますが、ジャパンファウンデーションでは毎年継続して実施している事業に加えて、国内外の現場で活躍する職員自らが企画発案したアイディアを社内で募集する、社内コンペのようなものがあります。

ブログで紹介してる例としては、

子供向け芸術交流事業を通じた元紛争地の復興支援事業

動画スクウェア

カラオケ日本語学習キャラバンinブラジル

などがありました。




そして、




本日は、現在進行中のプロジェクトをご紹介したいと思います。







先日担当の蟹江さんと、愛さんに話を聞いてきました。




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松:

どうもこんにちは。

蟹:

こんにちは。

松:

それではまずはじめに、事業が始まった経緯を教えてもらえますか?

蟹:
色々な要因があったのですが、まず基金が昨年、新宿区四谷に移転をしました。新宿区には、多くの外国につながりを持つ子ども達*1が住んでいます。ただ、日本の住民と必ずしも交流が活発にあるわけではなく、「隣の外国人」として、近くに住んでいながらもあまり接触がないという状況を聞いていました。そこで、基金がこれまで蓄積してきた国際交流の経験を、何かそういう地域の子供達に生かすことは出来ないかなー、と思うことがあり、今回の企画に繋がりました。




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松:

なるほど。

今回は「先駆的・創造的事業」ということで実施に繋がったようですが、どの辺りが先駆的・創造的だったんですかね?




蟹:

「多文化共生」という言葉で表現されるような活動は、既に全国各地で行なわれていますし、それ自体が先駆的・創造的ではないかと思います。ただ、「隣の外国人」である在住外国人の人々や外国につながりのある子どもたちと、「互いの違いを認めつつ、一緒に仲良くやっていきましょう」と提案はされていますが、その具体的な方法については、まだ模索中だと思います。その中で、海外の現場での文化交流が中心である基金が、地域に対してこれまでの文化交流のノウハウを生かして地域に対して何らかのアプローチをしたということが、基金としては新しかったのかもしれません。
また、海外につながりのある子どもたちの中には、将来、親や自分の出身国に住む子ども達もいます。ワークショップ参加した中高生の中には、小学生や中学生の時に来日し、日本語も日本文化もまったくわからないまま、不安な気持ちを抱えながら学校に通い、必死に日本語や日本文化を習得してきた子もいます。時には、日本社会の中で疎外感を感じ、日本に対してマイナスなイメージを持つこともあると思いますし、逆に楽しい思い出を作ることで、プラスなイメージを持つこともあると思うのです。今、彼らが日本でどういう環境の中で育ち、どういう経験をするかということは、彼らが大人になったときに日本に対してどういう印象を持つかということにも繋がってくると思うんですよね。その点で、ジャパンファウンデーションのミッション*2とも密接に関わってきている気がします。




松:
国と国の垣根が低くなりはじめて、人の移動もどんどん活発になってきている現代においては*3、単純に外国で事業をやれば日本に対するイメージアップに繋がるというわけでもなくなってきてるということでしょうかね。




蟹:

そうですね。これだけ人もモノも情報も移動するようになった時代の中で、これまでにないぐらい文化的背景の異なる人々と接する機会や、違う価値観との接触が増えていると思います。違う価値観は摩擦を引き起こす原因になりえます。でも、逆に何かのちょっとしたきっかけで、それが面白さや楽しさとして捉えることもあると思うのです。そのためには、新しい価値観、異質な価値観に出会ったときに、マイナスなものとして受け止めるのではなく、どうやったらプラスなものとして受け止めることができるか、そのための場づくりやきっかけづくり、そして個人のものの見方に対する訓練が必要だと思いました。それは、ながらく海外において国際相互理解を行ってきたジャパンファウンデーションだからこそできる事業なのではないかと思いました。

もちろん海外での日本文化紹介事業も重要ですが、異文化を受容する土台も併せて作ることで、多様な価値観に住む若い世代に向けて、効果的な活動につながるのではないかと思いました。

そのため、今回の事業では、例えば映画を上映するとか、シンポジウムを開催するとか、情報発信文化紹介型の内容ではなく、共同作業を中心にプログラムを考えました

第一に考えたのは、多様な背景を持つ参加者の間に信頼関係を築くことです。日本人にルーツのある子と、外国につながりのある子が一緒になって何かを作ったり、考えたりすることを行うことにしました。その際、今回活用したのが映像です。




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愛:

ひとつのものを一緒に作る時は、出自はどうあれ、必ず個人の文化的背景や価値観の違いが明らかになってくると思います。その時に、お互いの意見を調整したり、具体的な作業を分担したりしながらベストな方法を探すことが必要になりますよね。このやり取りの中で、仲間の性質や考え方を知り、自分はそれをどう受け止め、働きかけるのか、絶えず意識して考えなければならないので、共同作業は自分を知る機会でもありますし、他者をどれだけ受け入れられ、関わっていけるかの実践でもあると思います。

共同作業の中でも映像制作を選んだのは、映画を見ると、今まで知っていたはずの風景が新しく見えることがあるように、映像を通して外の世界や自分や他人を見ることは、自分が生活している土地、環境、自分自身についての新しい発見にもつながると思ったのがひとつの理由です。自分が知っていると思っていたものが違って見えるということは、映像ならではの力だと思います。それに、今はカメラがあればすぐにでも映像を撮れますし、パソコンを使って自分で編集などもできるようになっているので、参加してくれた中高生が、今後も自分たちで作り続けていけるひとつの表現方法として、体験する機会にもなれば良いなと考えました。

一緒に映像を作って、皆で見るということを通じて、「人と一緒に何かをすることは大変だけれど楽しいものだ」と思ってもらえたら、それが日々の生活の中でも違う価値観や考え方に対してポジティブに接するきっかけになるのではと期待しています。

自分自身も、この計画に携わることで本当に勉強になっています。

日本工学院専門学校の講師陣の方々の協力や新宿区で在住外国人児童への学習支援補助活動を行っているNPO法人「みんなのおうち」の協力を得て、9月に第一回目の映像制作ワークショップを行いました。




蟹:

次回は、9月のワークショップの様子をお伝えしたいと思います。




松:

ありがとうございました。じゃあ続きはまた次回ということで。




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*1:外国につながりを持つ子どもたちとは、必ずしも外国籍というわけでなく、例えば親のどちらかが外国籍であり、自分は日本国籍保持者である、または日本生まれ日本育ちですが、国籍は外国籍であるなど、様々なケースがあります。新宿区は住民の10人に一人が外国籍というぐらい、非常に海外からの在住者が多い地域です。特に、大久保地域の学校の中には、生徒の6割が外国につながりを持っている子供がいます。

*2:「国際文化交流事業を総合的かつ効率的に行うことにより、我が国に対する諸外国の理解を深め、国際相互理解を増進し、及び文化その他の分野において世界に貢献し、もって良好な国際環境の整備並びに我が国の調和ある対外関係の維持及び発展に寄与することを目的とする。」国際交流基金法より

*3:「人の移動」といえば、最近の遠近でも特集してました




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