Tuesday, September 25, 2007

「エリンが挑戦! にほんごできます。」って何がすごいの?(前編)






日本語国際センター(Nihongo Kokusai Center:通称NC)のNCニコです。8月23日に続き、2度目の登場です。((((o゚▽゚)o)))


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8月31日9月3日にロサンゼルス事務所の磯鍋さんも紹介してくださった「エリンが挑戦! にほんごできます。」DVDの発売について、NCからもレポートします。NCはこのDVD教材の制作現場ですので、今日はずばり、この教材の『何が新しいのか・どうすごいのか』迫ってみたいと思います。広報担当者の一人にすぎないNCニコには相当ハードルの高いテーマですので、制作チームの話を聞くのが一番!ということで行って参りました。


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…9月8日(土)に、東京・麹町にある書店・凡人社さんでDVD教材『エリンが挑戦! にほんごできます。』の店頭イベントがありました。この教材の制作チームのリーダーである簗島史恵NC専任講師が制作の意図、構成、そして使い方の工夫の仕方などについて、実際の教材をお見せしながら日本語教師などの一般の方々に説明しました。NCからは、NC内の各課スタッフと専任講師とで構成される5名の「エリン・ワーキングチーム」なるものがあるのですが、チームメンバーも3名(岩田一成NC専任講師、A.T. &NCニコ)で、話を聴きに行ってきました。





さっそく、簗島講師のプレゼンテーションの内容の一部をご紹介していきます。



教材紹介と制作意図


「エリンが挑戦! にほんごできます。」は、全3巻のDVD教材で、第1巻が既に発売されており、2巻と3巻は今年10月はじめに発売予定です。一部は昨年NHKの同名のテレビ番組で放映し、今もNHK教育テレビで再放送中(金曜日0:00~/5:10~)ですが、DVD教材はテレビ番組の内容20分に入らなかった内容も加えて、各回約25分に再構成し、全部で25課となっています。


もともと教材の対象は海外の若い日本語学習者たちを想定していたので、NCでは、海外の高校生や日本語教師たち約1,100名を対象に『日本のどんなことを知っているか?』『日本のどんな映像を見てみたいか?』といった内容のアンケートをとりました。そして、その結果をもとにしながら、日本の高校生の「生」の生活、高校生の視点から見る日本の文化や社会を紹介する映像教材づくりを始めました。


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アンケートの結果はまだ詳しく公表はしていないのですが、興味深い傾向が判明しました。各国にいる日本語教師たちは学生たちの興味・関心を慮って日本のアニメや映画などそれ自体を学習素材として日本語や日本文化を教えようと考えがちなのに対し、実は学生たちは、アニメや映画、J-POPなどについては教師たちをはるかに凌ぐほど多くの知識を持っているのです。中には、A4の紙1枚に、知っている日本の漫画のタイトルをびっしり(◎_◎;) 書いてくれた子もいました。日本人である私も知らないようなバンドの名前も、海外の高校生たちはたくさん知っているのです。


そのような状況の中、海外の高校生たちが求めている情報は、すでに手に入る漫画やアニメそれ自体ではなく、『漫画や映画の背景にある、日本人の普通の生活』なのだということが判りました。そうした学習者たちの気持ちを大切にしながら、日本の文化を紹介しつつ、語学としての日本語の勉強もできる、そんな教材を作ろうというのがスタートでした。



NCニコ:


『海外の高校生のほうが教師(時によっては日本人)よりも日本通!』というアンケート結果には、個人的にもいたく共感してしまいました。私は学生時代、東南アジアの某国に留学したのですが、友人のカーステレオでJ-POPの曲がかかっていたので「これ、日本語だね。誰の歌?」と何気なく聞いたら、「○○だよ。今すごく流行ってるのに知らないの?!NCニコってダサ~い。」と言われて落ち込んだことがありますo(;△;)o 。インターネットなどを通して、日本で流行している情報をリアルタイムでいくらでも入手できるんですよね。


岩田講師:

あはは。この教材づくりも結局、‘普通の生活’というところに落ち着いたようですね。DVDの中で、レンジでチンした惣菜を食べるシーンがあります。簗島先生もおっしゃってましたが、それを教材に載せるべきかどうかは、いろいろご批判もあったようですね。でもレンジのシーンなんて、すごくおもしろいと思いますよ~。中食*1なんていう言葉が定着してきていますしね。 ちなみに、私の食事なんてほぼ100%中食ですよ(^ー゚)ノ


A.T.:


そうですねー。「普通の生活」は当事者にとってはなんでもない、まさに「ふつう」の生活ですが、自分の外国語学習を思い返しても、学習者としてはそういう日常的な風景こそがおもしろいんですよね。ただ、簗島先生のお話を伺ってなるほど難しいなと思ったのは、価値観を押し付けずに普通の生活をありのままに見せる、ということです。レンジでチンしたお惣菜の夕食が良いとか悪いとか、メッセージを含ませないようにするという点、見せ方に工夫が必要だろうし、制作過程でも苦労があったのでは、と思いました。。



日本語教材としての「エリン」





実際にテレビ放映やDVDを見ていただくと分かると思うのですが、まったくの初級学習者がゼロから積み上げて使う教材としては内容的に難しいという面は確かにあります。むしろ、「ちょっと日本語学校で勉強している」「日本語学習にとりかかり始めている」くらいの学習者たちが、『いま習っている内容が実際に使えるんだ!』という自信をもてるようにすることが、「エリンが挑戦! にほんごできます。」の日本語教材としての目標です。まだ主流にはなっていないかもしれませんが、特に初級レベルにおける日本語教育は「CAN-DO(課題を遂行できるようにする)」を意識するのが先端的だと考えています。教科書どおり教えられたことをただ受動的に勉強するのではなく、学習者たちが自分でやりたいこと/やりたくないこと等を自発的にアピールできるようになる、そのことを強く意識しました。ですから、例えば第17課では『反対のことを言う』、第23課では『友達を誘う』となっているように、能動的に行動する、「口を開く」勇気p(´∇`)q ファイトォ~♪を主人公エリンと一緒に持っていく、そんな願いをこめて各課のタイトル選びをしました。


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そのため、各課のスキットの登場人物(日本人役)が話す日本語はできるだけ「オーセンティック(=本物に近い)」なことばを普通のスピードにすることを心がけました。全部を聞き取ることは難しいかもしれませんが、文字起こしをするようにスキットを聞くのではなく、学習者がエリンを自分と重ねて見て、「自分の置かれた状況を理解」し、「どう答えるか(対応するか)」をエリンと一緒に考えていただきたいと思います。



NCニコ:


英語についても、「ネイティブ・スピーカーは、日本の教科書に載っているとおりの英語を話していない」と言われることがありますよね。私の友人で日本語ぺらぺらの留学生がいるのですが、日本語学習でどうだったか聞いてみたところ、やっぱり「教科書で習った文法なんかは、実際の会話にはあまり役立たないと思ったこともある」と言っていました。「できるだけ本物に近い日本語」を使う、というのはとても大事な視点ですよね。例えばエリンDVDの『見てみよう』コーナーでは、標準語ではない日本語や、年代によって少し違うアクセントでしゃべっているシーンをそのまま載せてあります。農家のおばあさんと都会の女子高生とでは、明らかに話し方が違いますもんね。


岩田講師:


もうひとつ大事な点は、流れている日本語は100%理解できなくてもいいよっていうスタンスですね。オーセンティックなことばを普通のスピードで流すので、100%理解は無理です。まじめな人ほど、「全部理解してから次に行かねば」って思ってしまいますが、わからないところは飛ばしながら必要なところを聞き取るっていうことも言語使用場面ではよくあることです。『ダーリンは外国人』に出てくるトニーは、「日本人は特に『全部理解してから次に行かねば』という傾向が強い」って言ってます。同感、そして僕自身もそうですね~、実感。


A.T.:


たしかに。1つ分からない言葉があるとパニック( ̄□||||!!になってしまって、全体理解どころじゃなくなってしまう・・・というのは私にも覚えがあります。エリンの中で使われている日本語は、確かにとても自然で、語学の教科書にありがちな「うそっぽさ」がなくていいですよね。いろいろな日本語が聞ける『見てみよう』コーナーは私も好きです。


つづきは明日の後編でお届けします。お楽しみに~!(゚∇゚ノノ"☆(゚∇゚ノノ"☆(゚∇゚ノノ"☆




*1:中食(なかしょく)とは持ち帰り惣菜のことを指す造語です。決して「ちゅうしょく」ではありません。





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