日本語国際センター(通称「NC」Nihongo Kokusai Center)は、9月からたくさんの研修プログラムが開始されて、今、とても多くの研修参加者たちで賑わっています。9月12日からはじまった長期研修、9月19日からは中国日本語教師研修(大学コース)、そして9月27日からは日本語教育指導者養成プログラム(修士コース)と、三つのプログラムが同時並行で行われています。総勢100名以上の研修参加者がいらっしゃるため、昼休み中の食堂の混雑はすごいものがありますよ。まさに長蛇の列で、私たちスタッフが食事に入り込む余地はないくらいです。
さて、8月23日の日記でNCの研修プログラムにおける「日本文化紹介バージョンアップ企画」第1弾をご紹介しましたが、先日、その第2弾として、邦楽コンサート「現代邦楽の夕べ」を実施しました。
演奏していただいたミュージシャンは杉沼左千雄*1さんという尺八奏者と、AKI&KUNIKO*2という、筝とアコースティック・ギターのユニットです。このお三方はNCニコがジャパンファウンデーション本部の舞台芸術課にいた際にカリブ・中米ツアーを企画し、キューバ、コスタリカ、ドミニカ共和国の3カ国で演奏していただいた演奏家の方々で、その後もアメリカ(ニューヨーク、シカゴ)等で演奏されていますが、今回のNCでの企画は、国内にいながらにして約30ヶ国からなる聴衆を前に演奏していただくかたちとなりました。
1時間半のコンサートは即興演奏を含む3人での演奏に加えて3人それぞれのソロコーナーも設けました。研修参加者からは大変好評で、演奏終了後も、1時間以上にわたって写真撮影大会、演奏者への質問攻め、楽器を実際に触らせてもらってのワークショップ状態が続きました。
NCの研修参加者の方々は世界各国で日本語の先生をしている人たちなので、一般の外国の方々に比べたらはるかに日本や日本文化についての知識をもっている方が多いのですが、それでもコンサートホールに入った瞬間、「あの楽器はなんですか?」という質問がたくさん飛び交いました。「お琴です」「尺八です」と説明すると、楽器の名前は知っている人が多いようで、「ああ、あれがお琴ですかぁ」とおっしゃるのですが、やはり知識としてはあっても、「生を見る」機会はなかなかないのですね。
また、中国からの研修参加者の中からは、「お琴は中国の昔の楽器にとても似ているように思うのですが…」という質問があったので、コンサート中にお琴の帯名久仁子さんに伺ってみました。すると、
「お琴はもともとはシルクロードを伝わって中東の方から中国に伝わったものですが、日本には奈良時代に伝来しました。その後、中国のお琴は独自の発展を遂げたので当時の姿とはだいぶ変わったかたちになっているのですが、日本では中国から伝来して以来、ほぼそのままのかたちを保って現在に至るのです。」
というご説明がありました。なるほど、中国の参加者がおっしゃったのはまさにそのとおり、中国の古楽器≒日本のお琴、というのは大当たりだったんですね。
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コンサートの感想も含めて、研修参加者にインタビューをしましたので、研修の様子などをお伝えしたいと思います。今日ご紹介するのは、カザフスタンのカザフ国際関係外国語大学からいらっしゃった、アリプバエヴァ・ジュルドゥスさんです。
NCニコ(以下、「NC」):ジュルドゥスさんはいつから日本語の勉強を始めたのですか?
ジュルドゥス(以下、「ジュル」):1999年からです。カザフスタンのアル・ファラビ名称カザフ民族大学の東洋学部日本語学科で5年間勉強し、2004年から教師の仕事を始めました。今年で3年目になります。
NC:カザフスタンでは、外国語としてはどの言語を勉強するのがもっともポピュラーなのですか?日本語を勉強する人はそう多くなさそうな気がしますが・・・。
ジュル:一番人気があるのは中国語、次がトルコ語、そして韓国語ですね。最近、韓国の企業がカザフスタンに進出することが多くて、韓国語の人気が高まっているんです。
NC:あれ?ロシア語はどうして入っていないんですか?一番人気かと予想していました。
ジュル:ああ。カザフスタンでは、ロシア語はカザフスタン語と同じく、話せるのが当たり前なんです。テレビ局はカザフ語のものとロシア語と両方ありますが、国営放送はロシア語ですし、国会の答弁などもロシア語で行われます。都会で生まれ育った人の中には、ロシア語しか話せないという人もいるくらいなのが現状ですが、90年代以降、カザフ語の教育が熱心に行われるようになり、今ではカザフ語ができないと就職ができない、と言われるようになりました。
NC:なるほど、ロシア語は外国語ではない、という事情があるんですね。不勉強で失礼しました。ジュルさんがあえて、カザフスタンではマイナーな日本語を選んだのはどうしてですか?
ジュル:両親が教師をしているので、子供の頃から、将来は教師になりたいと思っていました。日本語を選んだのは、高校生のときに、世界各国に留学して帰ってきた学生たちが書いた記事の載っている新聞を読んだのがきっかけでした。その中に、日本に留学してきた学生の書いた文章があり、掲載されていた奈良の東大寺の写真などに魅了され、自分も日本に行ってみたい、と思うようになりました。偶然ですが、その記事を書いた学生が、私が大学に入った際の日本語の最初の先生になりました。しかもその先生は、かつてNCで研修したこともある人です。
NC:日本の伝統文化に興味をひかれて日本語の世界に入られて、カザフの日本語学習者の密接なネットワークの中にいらっしゃるわけですね。しかもそのネットワークにNCも絡んでいるようで、嬉しい限りです。大学では日本語のほか、日本について何か専門的な勉強をなさったのですか?
ジュル:私の専門は、語学のほかは歴史です。もともとは領土問題などの日露関係について調べたいと思っていたのですが、先生との相談の結果、福沢諭吉について卒論を書きました。300年もの間、鎖国をしていた日本が、明治時代にヨーロッパ式の文化をどのように取り入れ、考えていったかということをテーマにしました。カザフスタンでは一般的には福沢諭吉は有名ではないですが、日本語を勉強した人ならみんな知っています。日本の歴史や文化・伝統などについて勉強もしますので。
NC:伝統文化といえば、先日、日本文化体験の特別企画で「現代邦楽の夕べ」という邦楽のコンサートを実施しましたが、どうでしたか?
ジュル:あのコンサートは、日本式の伝統的なものと西欧式なものが共存していて、とても面白かったです。日本の楽器を使ってあのような演奏をするミュージシャンがいるんですね。
NC:楽しんでいただけてよかったです。今回の研修の間に、日本語や日本語教授法を学んだりする以外に、特に身につけたいと思っているようなことはありますか?
ジュル:大学での勉強をまだ続けたいと思っていますので、日本滞在中に、次の研究テーマを見つけたいと思っています。カザフスタンの大学で教授職を得るためには、修士号や博士号をもっていることが必要だからです。そんな目的もあって、センターで授業のない週末は、できるだけ都内などいろいろなところに出かけるようにしています。これまで、六本木や新宿、大宮などに出かけました。
NC:ジュルさんの参加している研修は長期研修ですから、まだまだ時間がたっぷりありますね。
ジュル:3月までとはいっても、もう11月なんですよ!!「時間がある」とは決して言えません。ただでさえ、来月は期末テストがあり、毎日授業の課題をこなすだけでも大変なのに、6ヶ月なんてあっという間に終わってしまう気がします。。。
NC:私たちスタッフが思っている以上に、研修生活はハードなんですね。くれぐれも健康に気をつけてすごしてください。日本での生活で面白い点、不思議に思ったことなどあれば、教えてください。もしかしたら、日本人である私にとっても新たな発見になるかもしれません。日本に留学しているカザフスタンの学生たちの集まる会も東京都内で定期的に開かれているようですので、ご紹介したいと思います。お時間があったら、私の住んでいる東京下町ツアーにお連れすることもできますよ♪
ジュル:是非、お願いします!
ジュルさん、授業後のお疲れのところ、お時間いただきありがとうございました。ちなみに「ジュルドゥス」というのはカザフ語で「星」という意味なのだそうです。素敵なお名前ですね☆☆カザフスタンという国について、もっといろいろなことを知りたくなりました。
今回の長期研修プログラムには、世界28ヶ国から68人の日本語教師の方々が参加しています。今後も、このブログやNCウェブサイト等いろいろな機会を捉えて、研修参加者の方々の声を紹介させていただきたいと思います。 「NC研修事業めじろ押しの秋」後編は、11月2日に掲載の予定です。日本文化紹介特別企画第3弾(空手デモンストレーション)と、研修参加者インタビュー(ドミニカ共和国出身)をお届けする予定です。お楽しみになさってくださいませ~(*"ー"*)(*"ー"*)♪
*1:・杉沼左千雄(尺八)/ 琴古流尺八を故・山口五郎氏(人間国宝)に師事し、古典の世界で研鑽を積んだ後、1980年頃より新しい尺八の表現を求めて、九孔尺八(穴が9つあいた尺八)を使用し始める。即興演奏、作曲活動等に力を注ぐ。公式HP:http://www.sachio.info
*2:AKI(ギター)と帯名久仁子(筝)によるユニット。公式HP:http://www.hayamamoonstudio.com AKI(ギター):1998年にドイツのギタリストPeter Fingerに認められた後、日本国内でアコースティック・ギタリストとしてデビュー。2001年に伝統邦楽界の帯名久仁子とともにAKI&KUNIKOを結成。 帯名久仁子(筝、和胡弓):3歳より筝の演奏を始める。東京藝術大学邦楽科卒業、同大学院音楽研究科修了。宮城会に所属し邦楽家としての活動を続けつつ、2001年以来、AKI&KUNIKOとしての演奏を主に活躍している。